レーザ安全講習資料
レーザー光を原因とする眼に対する障害
光密度エネルギーとしてのレーザー光は波長が安定でコヒーレント性が高いために容易にビーム径を絞ることが可能です。 絞ることにより、エネルギー密度(Power Intensity)が上がるため、視覚をはじめとする障害を起こすことがあります。 特に各種材料の切断、穴開け、溶接等の加工等の高出力レーザー(Class3B, Class4)は注意する必要があります。 これらの機器を使用する場合、加工機、計測機器自体の安全設計と共に使用の際に十分な安全対策をすることで、レーザー光線による人体への障害、具体的には眼障害あるいは皮膚障害を回避しなければなりません。 わが国においてIECの規格を基に、1988年に[レーザー製品の放射安全基準](JISC6802)1999年度内、改訂版発行予定)が制定されました。 以下にレーザー光線による眼への作用と障害を示します。
イ.連続または長パルスレーザーを放射するアルゴンレーザー、YAGレーザー、CO2レーザー等では、熱作用または光化学作用により次に掲げる障害が起こります。
(1)視覚焦点域外の波長(紫外部(200~400nm)及び赤外部の一部(1,400~106nm))をもつレーザー光線は、角膜、水晶体等の組織に吸収されて角膜火傷、視力低下を伴う白内障などを起こします。
(2)視覚焦点域内の波長(可視部(400~780nm)及び赤外部の一部(780~1,400nm))をもつレーザー光線は、眼の光学系(角膜、水晶体)により網膜上に集光されて密度が概ね10の5乗倍大きくなるため、以下に掲げるような障害をもたらします。
a) 網膜(中心か付近)に吸収される連続波レーザー光線は、主として熱作用により網膜火傷を起こします。
b) 波長が概ね430nm付近の可視光レーザー(網膜視細胞の視感色素に吸収される。)は、主として光化学作用により網膜障害を起こします。
ロ.短パルスの高いピークパワーのレーザーを放射するYAG(Q-スイッチ)レーザー、CO2レーザー等では、衝撃波により網膜火傷、眼底出血が起こり、しばしば高度の視力低下を伴います。
参考文献
1.レーザー製品の放射安全基準(JISC6802)
2.レーザー光線による障害防止対策要綱(労働省基発第39号通達)
3.財団法人光産業技術振興協会, レーザ安全ガイドブック.
レーザ光の安全基準
国際電気標準(IEC)の基準をもとに日本工業規格「レーザ製品の安全基準」JIS C 6802が規定されている。 欧州規格 EN 60825-1:2007のクラス分類基準はJIS C6802:2011と整合。
クラス | 危険評価の概要 |
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クラス1 | 合理的に予見可能な運転条件下で、または観察用光学器具(ルーペまたは双眼鏡)を用いても安全なレーザ製品。可視光の場合、目がくらむなどの視覚的影響が出る場合がある。 |
クラス1M | 合理的に予見可能な運転条件下で、裸眼では安全なレーザ製品。 |
クラス2 | 通常、まばたきなどの嫌悪反応によって目は保護され、瞬間的な被ばくのときは安全であるが、意図的なビーム凝視をすると危険なレーザ製品。また、残像による一時的な視力障害や、驚きによる反応動作によるリスクに注意が必要。 |
クラス2M | 裸眼においては、クラス2と同じく、通常まばたきなどの嫌悪反応によって目は保護され、瞬間的な被ばくのときは安全であるが、意図的なビーム凝視をすると危険なレーザ製品。また、残像による一時的な視力障害や、驚きによる反応動作によるリスクに注意が必要。光学器具を用いると、条件により目の障害が出る可能性がある。 |
クラス3R | 直接ビーム内観察による障害がクラス3Bに比べて比較的少ない。意図的に目に露光することは危険である。 また、残像による一時的な視力障害や、驚きによる反応動作によるリスクに注意が必要。 |
クラス3B | 目へのビーム内露光が生じると、偶然による短時間の露光でも通常危険。 |
クラス4 | ビーム内の観察および皮膚への露光は危険。火災を発生させる危険性もある。 |
レーザ光線による障害の防止策
労働安全衛生法ではレーザを用いた労働について、その安全予防対策の具体的内容をクラス1、クラス2以外のレーザ機器を対象に「レーザ光線による障害の防止対策について」で定めている。
措置内容(項目のみ) | 措置内容 | レーザ機器のクラス | ||||||
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4 | 3B | 3R | 2M | 1M | ||||
レーザ機器管理者の選任 | レーザ機器の取扱およびレーザ光線による障害の防止について十分な知識と経験を有する者のうちから選任 | ● | ● | ● | ||||
管理区域(標識、立入禁止) | 他の区域と区画し標識等で明示、関係者以外立入禁止 | ● | ● | ● | ||||
レーザ機器 | レーザ光路 | 光路の位置 | 作業者の目の高さを避ける | ● | ● | ● | ● | ● |
光路の適切な設計・遮蔽 | 可能な限り短く折れ曲がる数を最小にして、歩行路と交差させず可能な限り遮蔽 | ● | ● | ● | ||||
適切な終端 | 適切な反射率および耐熱性ももつ拡散反射体または吸収体で終端 | ● | ● | ● | ||||
キーコントロール | キー等により作動する構造 | ● | ● | |||||
緊急停止スイッチ等 | 緊急停止スイッチ | レーザ光の放出を直ちに停止できる非常停止スイッチ | ● | ● | ||||
警報装置 | 容易に確認できる自動表示灯等の警報装置 | ● | ● | ● | ||||
シャッタ | 放出口に不意の放出を避けるシャッタ | ● | ● | |||||
インターロックシステム等 | 管理区域開放、光路遮蔽解除の時、レーザ放出自動停止 | ● | ● | |||||
放出口の表示 | レーザ光放出口に表示 | ● | ● | ● | ||||
作業管理等 | 操作位置 | レーザ光路からできるだけ離れた位置でレーザ機器の制御 | ● | |||||
光学系の調整 | 光学調整時は必要最小のパワーで行う | ● | ||||||
保護具 | 保護メガネ | レーザの種類に応じた適切なレーザ用保護めがねの着用 | ● | ● | ● | |||
保護衣 | 皮膚の露出の少ない作業衣の着用 | ● | ● | |||||
難燃性素材の使用 | 難燃性素材の衣服着用、溶融して玉状になる化学繊維は不適 | ● | ||||||
点検・整備 | 始業点検、一定期間ごとの点検、調整 | ● | ● | ● | ● | ● | ||
安全衛生教育 | 労働者の雇い入れ時、作業内容変更時、レーザ機器変更時の教育 | ● | ● | ● | ● | ● | ||
健康管理 | 前眼部検査 | 雇い入れまたは配置替え時に視力検査と併せて角膜、水晶体検査 | ● | ● | ● | |||
眼底検査 | 雇い入れまたは配置替え時に視力検査と併せて眼底検査 | ● | ||||||
その他 | 掲示 | 管理者氏名 | レーザ機器管理者氏名 | ● | ● | ● | ||
危険性掲示 | 見やすい箇所に、レーザ光線の危険性、有害性および取扱注意事項 | ● | ● | ● | ● | ● | ||
設置の表示 | レーザ設備の標識 | ● | ● | |||||
高電圧の表示 | 高電圧部分の表示、感電防止措置 | ● | ● | ● | ● | ● | ||
危険物の持込禁止 | 管理区域内 | 爆発物、引火性物質 | ● | |||||
レーザ光路付近 | 爆発物、引火性物質 | ● | ● | |||||
有害ガス、粉じん等 | 労働安全衛生法所定の措置 | ● | ● | |||||
レーザ光線による障害の疑いのある者に対する医師の診察・処置 | レーザ光による障害が疑われる者には、速やかに医師による診察・処置を実施 | ● | ● | ● | ● | ● |
弊社ドップラ速度測定システムに対する適用
安全対策実施例・厚生労働省「レーザー光線による障害の防止対策について」における レーザー機器のクラス別措置基準一覧表 「クラス3B」の項目を使用
レーザー機器のクラス3B | ||||
措置内容 | 安全対策 | |||
レーザ機器管理者の選任 | ● | 機器責任者を決める | ||
管理区域(標識、立入禁止) | ● | 標識、立入禁止表示、レーザ遮光ついたてを準備する。 | ||
レーザ機器 | レーザ光路 | 光路の位置 | ● | 本装置のレーザーは波長780nm出力は約40mW。 レーザースポットサイズ5mmX2mmの楕円ビーム。 コリメートされた平行光なので、センサ設置光路を目線より下にする。また、不要光路を可能な限り遮蔽する。 |
光路の適切な設計・遮へい | ● | |||
適切な終端 | ● | |||
キーコントロール | ● | かぎによるレーザーON/OFF制御機能。またはパスワードをキーインすることによるレーザーON/OFF制御機能あり。 | ||
緊急停止スイッチ等 | 緊急停止スイッチ | ● | 必要があれば、非常停止ボタンを設置して対応可能。 | |
警報スイッチ | ● | レーザー放射時、センサと信号処理機に警告灯(緑LED)が点灯する。 | ||
シャッター | ● | レーザーを機械的に遮光するシャッタが付いている。 | ||
インターロックシステム等 | ● | 必要があれば、非常停止ボタンを設置して対応。 インターロック用リモート端子あり。 |
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放出口の表示 | ● | レーザー放出口の表示シールを貼布。 | ||
光学系調整時の措置 | ● | 安全マニュアルを整備する。 | ||
保護具 | 保護眼鏡 | ● | レーザー用保護眼鏡を準備する。 | |
皮膚の露出の少ない作業衣 | ● | 長袖作業着着用とする。 | ||
点検・整備 | ● | 始業点検表を作成して実施する。 | ||
安全衛生教育 | ● | レーザー業務前に実施する。 | ||
健康管理 | 前眼部(角膜、水晶体)検査 | ● | 健康診断を受診する。 | |
その他 | 掲示 | レーザ機器管理者 | ● | 機器責任者の表示をする。 |
危険性・有害性、取扱注意事項 | ● | 掲示する。 | ||
レーザー機器の設置の表示 | ● | 掲示する。 | ||
レーザー機器の高電圧部分の表示 | ● | 高圧部(180V)は二重に密閉されたケースに入っているため、高圧表示は不要。 | ||
危険物の持ち込み禁止 | ● | 危険物の持ち込み禁止とする。 | ||
有害ガス、粉じん等への措置 | ● | 腐食性ガス・可燃性ガス・粉塵に対する措置はなし。 防滴・防爆仕様ではない。 |
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レーザー光線による障害の疑いのある者に対する医師の診察、処置 | ● | 診察、処置を受ける。 |